備忘録

読んだり観たりしたものを記録します

望月峯太郎『バタアシ金魚』『お茶の間』

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職業柄漫画を読む機会が多く、多分年に500作品以上読むが
近頃もはやどの作品がどんなハナシだったか全然覚えられなくなってしまったため、
印象に残った作品のみを備忘録を残してみる。
続くかどうかはわかりません。

 

日付変わって昨日は知人のすすめにより
望月峯太郎の『バタアシ金魚』と
その続編にあたる『お茶の間』を一気読み。 

book.dmm.com

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ちなみに望月峯太郎はだいぶ前に
名作と名高い『ドラゴンヘッド』を読んで、
あのあまりの不気味さと暗さに落ち込んでしまい最後まで読めず
望月ミネタロウ名義の『東京怪童』
あまりハマらなかった覚えがあり.....

普段暗い・怖い話も別に嫌いじゃない、というかむしろ好んで読むくらいなので相性悪い作家かな〜という認識で、

望月峯太郎=ブキミでなんかこわい上にハマらない

のイメージだったけどこの『バタアシ金魚』は
名作中の名作、ドンピシャどハマり!
とにかくほぼ全ページフルスロットル!
古谷実安達哲ラインの青春群像劇よりパワーポップでエネルギッシュ!
愛とか恋とか夢とか性欲とか自己顕示欲とか、
いろんなもんごった煮にした最高の青春ラブコメギャグスポーツマン漫画だった。

 

まず1話めの7、8ページ目という序盤の序盤から
主人公・カオルがヒロインをバチボコに殴る描写のそのスピードに感動。

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バタアシ金魚』1巻 P.7 望月峯太郎 講談社

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バタアシ金魚』1巻 P.8 望月峯太郎 講談社

男も女も老婆も犬も関係なく軽率に殴り、殴られるスタイルがアツイ。
(※主人公のカオル自身も所構わず殴られまくる)

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バタアシ金魚』3巻 P.105 望月峯太郎 講談社

 

バイク描写もいちいちAKIRA並みにかっこいい。

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連載開始自体が85年頃ということもあり、
軽率な暴力とかバイク描写とか散りばめられたヤンキーマインドが80'sの時代を感じさせる。

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バタアシ金魚』2巻 P.4 望月峯太郎 講談社
(ファッションもまんま80'sでカワイイ)


ざっくりあらすじは

ひと目惚れした女の子を追いかけまわして同じ水泳部に入り
中耳炎持ちでロクに泳げないのにかっこいいところを見せようと
あの手この手(試合前に後方からブン殴ったり、人のゴーグル盗んだり、目潰しのための砂を仕込んだりと非常に卑怯な戦術)で先輩やライバルに張り合おうとするも一向に相手にされず…
謎のスパルタババアに目をつけられたことから才能が開花する….のか!?

...みたいな話なのだが、その青春スポーツ漫画の主人公らしからぬ挙動不審で思い込みが激しいクソヤバ奴、という認識から、後半に差し掛かる頃にはカオルに対して愛しさとエモさがどんどんこみ上げる。

カオルの直向きさとピュアさ、
そしてすっげー負けず嫌いなのに認めるときは相手を認める潔さにだんだん胸を打たれていく。

特に思い入れがあるエピソードは3巻あたりのリズム感がなくて6ビートが正確に刻めない話。


「変だけどまあそれはそれでいいじゃん!」と
ババアに励ましの肯定をされるたびに
別に俺は自分じゃ変だと思ってないんだけど...」と内心思うシーン、
なんだか過去の自分に重ね合わせてしまって心がギュンギュンに締め付けられた。
別にわざとやってるわけじゃないのにどーしても他の人と同じようにうまくできなかったあの時。小学生の時姉と遊んだマリカーでも、中学の部活でも、高校の出し物で踊ったダンスでもそうだった。そんな切な悔しい記憶を唐突に抉られる。

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バタアシ金魚』3巻 P.155〜P.158 望月峯太郎 講談社

 

 

クソバカコメディに見えて恐ろしくストレートな愛と夢の物語。
映画でも音楽でもなんでもそうだけど、
こういう素晴らしい作品に出会うたびに「あ〜〜私はこのために生きている」と実感する。

大事なATBの一つとなりました。

 

若さってガンバリズム!!!!!

 

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バタアシ金魚』4巻 P.205 望月峯太郎 講談社
こういうギャグセンスは古谷実に受け継がれている気がする



続編の『お茶の間』はスポ根ヤンキーラブコメ漫画だった本編とは打って変わって 人生とは何か?夢とは?結婚とは?というテーマが主軸となる。
新井英樹『宮本から君へ』とはまた違う方向性ではあるけど、その熱量は負けてない。

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『お茶の間』2巻 P.82 望月峯太郎 講談社

 

つい最近ル・シネマで観た、
エリック・ロメール『愛の昼下がり』に通ずる恋愛観、結婚観もある気がした。


あえて未来を示唆しきらない終わらせ方も美しく、
ラストのページで思わず涙ぐむ。
社会人になってからわかる現実との戦いと葛藤、
カオルの選択も私の選択も間違ってなかったと心から思えますように。

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